Kinectを用いた手旗信号の認識手法に関する研究

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2011 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震 の影響により災害に対する関心が深まっている. そのような背景の中,災害時の緊急用の通信手段として海上保安庁等で使用されている手旗信号に関心が寄せられている.しかし,手旗信号は一 般的といえず,個人での習得は困難とされる. そこで人間を認識測定する技術であるモーションキャプチャシステムを用い手旗信号の認識を行うことが考えられる. これには高価で, 特別な機 器を使用しなければならないうえ,使用場所も限られていた. しかし,Kinectを用いることにより安価かつ手軽に行えるようになった. そこで本研究では,手旗信号の正しい動作を学ぶためのツールとして,Kinect と機械学習を用いてトレーニングシステムのための主要部分となる認識手法を検討した. 動的な認識を行う前段階として,原画の基本的な動作認識を行い,先行研究との比較 実験を行った結果を述べる.

 

認識対象と認識方法

手旗信号とは16種類の原画を用いて50音,数字の日本語を相手に伝える通信手段である .手旗信号の一部の原画には動きで示すものも含まれるが,本研究では 50 音を示すことを目標とし,図 1 に示す姿勢を認識対象とした.動きを 2 つの 静止姿勢に分割した原画 11-1,原画 11-2 を含め た合計 16 種類の姿勢で50音が表現できる.

表表表表表表表表表表表表表表表表表表 図 1 認識対象とした手旗信号の姿勢(原画)

姿勢の検出にあたっては,Windows 環境での 利用と骨格節点情報を得るために Kinect for Windows SDK と XNA Game Studioを用い,機械学習アルゴリズムで認識手法を実装する. 取得できる節点の位置を図 2 に示す. 手旗信号の姿勢を考慮し,HIP_CENTERから上の12点の節点位置を用いて原画の認識を行った. 本研究では,Kinectと対象者間の距離依存性をなくすために,頭部を動かす動作がないことを考慮し,HIP_CENTER から HEADまでの距離を用いて各要素(節点間距離)を正規化している.

表表表表表表表表表表表表表表表 図 2 認識対象とした手旗信号の姿勢(原画) Programming with the Kinect for Windows SDK

実験の目的

提案した 16 種類の原画の認識精度の確認を行う.本実験では Kinect SDK を使用し,節点の座 標を取得するのに最適な範囲になるように床からKinectの距離を95cm,Kinectから被験者との距離を2.5mと設定した. 本実験の原画認識の処理フローを図 3 に示す. 被験者 2 名(A,B)に対して,原画16種類をそれぞれ10回ずつ姿勢判定 を行い,テンプレートデータと作成した評価データを用い認識実験を行う.評価実験でNearest Neighbor (NN)法 Back Propagation Neural Network (BPNN)法の比較をする. 取得した評価条件とは,(1)テンプレートデータの作成者と評 価データの被験者が同一の場合,(2)テンプレートデータと評価データの被験者が異なる場合である. 設計したニユーラルネットワーク構成モデルを図 4 に示す.

表表表 図 3 原画認識の処理フロー. Kinect SDKを使用し, HIP_CENTERから12節点座標を取得と決定.
表表 図 4 ニユーラルネットワーク構成モデル. 入力: 各節点まで12距離12ヶ所, 出力:16種類の手旗信号パターン.

実験の結果と評価

得られた特徴ベクトルを用いて姿勢の判定を行う. 評価実験ではNN法とBPNN法の比較を行う. 同一被験者で比較実験を行った理由は,節点間の距離データのみを用いてすベての原画を認識できるかを確認するためである.同一被験者 の場合は,NN法による認識結果とBPNN法による認識に大きな違いは見られなかった. 一方で,被験者が異なる場合は,BPNN法では,平均認識結果が94%と良好な結果を示した. NN法の結果は,認識結果か 60%となり,BPNN法より悪かった. 特に,原画 6や8では,NN法で 0%平均認識,BPNN法で100%平均認識となり,NN法は全く認識しなかった. BPNN法による大きな差が付いた結果となった. NN法とBPNN法による認識結果を表 1と表 2 に示す. ここで,BPNNの性能が良いのは,その汎化性が働いた結果である. 学習したことにより未知のデータに関して正しい出力を出せる確率が上がり,入力パターンに対して正しいクラスを判別している.

学習法 1 2 逆2 2 4 5 6 7 8 9 10  11-1 11-2 12 13 14 平均%
NN 20 100 90 100 100 100 0 50 0 100 0 0 80 100 40 90 60
BPNN 100 80 100 100 100 90 100 90 100 100 100 70 100 90 80 100 94
表 1. NN と BPNN 認識結果 (平均%) (被験者が異なる場合)

まとめ

本研究では手旗信号を学ふツールを作成する ことを目的とし,原画16種類の認識率の確認実験と評価を行った.実験を行う前段階として,原点と各節点の距離から特徴量を求めた.この特徴量を用いて原画の認識実験を行った. パターンマ ッチングによる自動認識により手旗信号の原画を判定した. BPNN法による実験結果がNN法による結果より優れた認識が得られた. しかし,認識率が低い原画(70%)も存在するので角度データを用いて認識率の向上を図るとともに,本手法を元に動きを伴う原画の認識,すなわち手旗信号による文の認識などが今度の課題として挙げられる.